文化的景観とは
日本の多様な気候風土の中で、人々は、地域の自然と関わりながら生業を立て、生活を営み、長い年月をかけてその土地ならではの特徴的な景観を築きあげてきました。このような歴史と風土に根ざした暮らしの景観は、日本の文化を理解する上でとても大切ですが、身近であるがゆえに、その良さに気づかれることなく失われつつあります。
文化財保護法では、こうした景観を受けつぐ土地を「文化的景観」とし、文化財の一つに位置付けています。
文化財保護法第2条第1項第5号 文化的景観「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」
阿蘇の文化的景観の概要
九州の内陸ほぼ中央に位置する阿蘇火山は、面積約38k㎡のカルデラ地形を有し、計4回の火砕流噴火によって形成された中央火口丘・カルデラ床・外輪山からなる活火山です。
阿蘇市は、北外輪山及び中央火口丘の北斜面に大規模な草地が広がり、それぞれ阿蘇谷の平地へ向けて下るにつれて斜面は林地、山裾は居住地、平地は耕作地が広がっています。
平安時代の『延喜式』に阿蘇での馬生産を示す「牧」の記述があるように、阿蘇の草肥は、千年以上にわたり、牛馬の放牧及び飼料用の草を得る場、耕作地に施す緑肥及びたい肥を供給する場、時には居住地の家屋の屋根及び生活用具の材料を供給する場等として継続的に利用されてきました。採草には、標高約500mの山裾にある居住地から標高約800mの山上にある草地へ徒歩で往復して作業する必要があったため、斜面地には「草の道」と呼ばれる細い作業道が分布しているほか、作業期間に家族が草地で「草泊まり」として野営した習慣が伝えられています。このような草地を軸として、地形に沿って垂直方向に変化する土地利用及び景観は、阿蘇地域の自然風土に適応した生活又は生業によって歴史的に形成されてきたものです。
草地では、毎年の採草・火入れ・放牧が継続されてきたため、全国的にも貴重な生態系が育まれています。
近年の草地は、地域の牧野組合が中心となり、秋に草を刈って防火帯を作る「輪地切り」及び早春に枯れた草を焼き払う「野焼き」によって維持されていますが、担い手の確保が課題となっています。平成17(2005)年からは、自然再生法に基づいて関係行政機関、地域住民、牧野組合員、NPO、専門家等によって「阿蘇草原再生協議会」が組織され、国立公園管理団体である「(公財)阿蘇グリーンストック」とともに、草地を維持再生する募金活動及びボランティア活動が継続的に行われています。
阿蘇の文化的景観は、広大な阿蘇のカルデラ地形に沿った土地利用を継続的に行ってきたために形成された草地・林地・居住地・耕作地が一体となった文化的景観です。特にその中心となる阿蘇地方の採草・放牧に関連する景観は千年以上継続するものであり、阿蘇地域の生活や生業の理解のため欠くことのできないものです。
文化的景観の保護措置について
文化的景観の中でも、地域の特色を示す代表的なものや、他に例を見ない独特なものなど特に重要なものについては、その保存や活用の基本的な方針をはじめ、土地利用や整備、体制の仕組みなどを都道府県や市町村が計画を定め、国が「重要文化的景観」に選定します。
重要文化的景観に選定された地域のうち、重要な構成要素となっている土地の現状を変更し、あるいはその保存に影響を及ぼす行為をしようとする場合、文化財保護法により、文化庁長官に届け出ることとされています。ただし、文化的景観を生み出した農林畜産業などの通常の生業に係る行為や非常災害に係る応急措置等においては、この限りではありません。
重要文化的景観の選定範囲で建築物・工作物の設置や土地の造成などの計画する際は、事前に阿蘇市教育委員会にお問い合わせください。詳細は、下記の参考資料をご参照ください。
届出が必要な事項 | 届出が必要な範囲 | 届出者 | 届出先 | 提出期限 |
滅失またはき損 | 重要文化的景観選定範囲の地域のうち「重要な構成要素」 | 重要な構成要素の所有者または占有者 | 文化庁長官 ※市教育委員会・県教育委員会経由 | 事実を知った日から10日以内 |
現状変更または保存に影響を及ぼす行為 | 重要文化的景観選定範囲の地域のうち「重要な構成要素」 | 現状変更などをしようとするもの(国の機関、地方公共団体、民間事業者など) | 文化庁長官 ※市教育委員会・県教育委員会経由 | 行為をしようとする日の30日前まで |
【参考資料】
阿蘇の文化的景観保存活用計画【阿蘇市】2022.8[31.2MB]
選定範囲及び重要な構成要素の位置
番号 | 重要な構成要素の名称 | 所在地 | 選定状況 |
1 | 山田東部部落有財産管理組合の草原 | 阿蘇市山田字端辺 | 平成29年10月13日 |
2 | 山田中部牧野組合の草原 | 阿蘇市山田字端辺 | 平成29年10月13日 |
3 | 阿部牧場の草原 | 阿蘇市山田字端辺 | 平成29年10月13日 |
4 | 新宮牧野組合の草原 | 阿蘇市山田字端辺
阿蘇市湯浦字端辺 |
令和3年3月26日 |
5 | 西湯浦牧野組合の草原 | 阿蘇市西湯浦字端辺
阿蘇市西湯浦字崩引 阿蘇市西湯浦字松尾 阿蘇市西湯浦字掛橋 阿蘇市西湯浦字北横石 |
令和3年3月26日 |
6 | 成川牧野組合の草原 | 阿蘇市西湯浦字端辺 | 令和3年3月26日 |
7 | 小里原野組合の草原 | 阿蘇市西小園字端辺 | 令和3年3月26日 |
8 | 西小園原野組合の草原 | 阿蘇市西小園字端辺
阿蘇市西小園字中園 |
令和3年3月26日 |
9 | 2・3・5区牧野組合の草原 | 阿蘇市西小園字端辺
阿蘇市西小園字中園 |
令和3年3月26日 |
10 | 三久保牧野組合の草原 | 阿蘇市西小園字端辺 | 令和3年3月26日 |
11 | 狩尾牧野組合の草原 | 阿蘇市狩尾字端辺
阿蘇市狩尾字日下 |
令和3年3月26日 |
12 | 農事組合法人狩尾牧場の草原 | 阿蘇市狩尾字端辺 | 令和3年3月26日 |
13 | 跡ヶ瀬牧野組合の草原 | 阿蘇市跡ヶ瀬字端辺 | 令和3年3月26日 |
14 | 的石原野管理組合の草原 | 阿蘇市的石字端辺
阿蘇市的石字戸下 |
令和3年3月26日 |
15 | 車帰原野管理組合の草原 | 阿蘇市車帰字大平
阿蘇市車帰字端辺 阿蘇市車帰字瀧下 |
令和3年3月26日 |
16 | 小堀牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町宮地 | 令和5年3月20日 |
17 | 二塚牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町宮地 | 令和5年3月20日 |
18 | 泉牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町宮地 | 令和5年3月20日 |
19 | 日の尾牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町宮地
阿蘇市一の宮町坂梨 |
令和5年3月20日 |
20 | 町古閑牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町坂梨 | 令和5年3月20日 |
21 | 馬場豆札牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町北坂梨 | 令和5年3月20日 |
22 | 一区牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町北坂梨 | 令和5年3月20日 |
23 | 阿蘇品牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮三野 | 令和5年3月20日 |
24 | 三閑牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町三野 | 令和5年3月20日 |
25 | 土井原野管理組合の草原 | 阿蘇市一の宮町三野 | 令和5年3月20日 |
26 | 立山牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町手野 | 令和5年3月20日 |
27 | 宮坂・尾籠牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町手野 | 令和5年3月20日 |
28 | 7区の草原 | 阿蘇市一の宮町手野 | 令和5年3月20日 |
29 | 井手牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町手野
阿蘇市一の宮町中通 阿蘇市一の宮町荻の草 |
令和5年3月20日 |
30 | 木落牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町中通
阿蘇市一の宮町荻の草 |
令和5年3月20日 |
31 | 中荻の草牧野組合の草原 | 阿蘇市一の宮町手野
阿蘇市一の宮町荻の草 |
令和5年3月20日 |
区分:国選定重要文化的景観
選定年月日:平成29年10月13日「阿蘇の文化的景観 阿蘇北外輪山中央部の草原景観」
選定追加・名称変更年月日:令和3年3月26日「阿蘇の文化的景観 阿蘇北外輪山の草原景観」
選定追加・名称変更年月日:令和5年3月20日「阿蘇の文化的景観 阿蘇北外輪山及び中央火口丘群の草原景観」